10月も半ばになり、少し肌寒くなりましたね。忙しさが出てきて「年末感」がしてきました。
さて今回も、私の個人的な革靴の思い出や革靴との向き合い方を紹介する通称「靴ポエム」記事になります。
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今回のテーマは「お客様目線」についてです。私の大学時代の恩師と初めての革靴の話。
一番続いたアルバイトはスーパーの靴売り場
話は学生時代にさかのぼる。
私は受験生だったころ国立大学への受験に失敗し、都内の私立大学に通うこととなった。
国立大学に執着がそれほどあったわけではなかったが、唯一最大の悩みは学費だった。一年間で約100万円。仮に留学をすれば、特別な場合を除いて追加で数百万円かかる。
私は学部生の大半が留学を経験する外国語学部に進んだものの、一般の留学は諦めてアルバイトで学費をとにかく稼ぐことにした(そうしないと学費が払えず退学になってしまう)。
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郵便配達やお惣菜売り場、その他いろいろ経験したが、最も続いたアルバイトはスーパーの靴売り場のアルバイトだった。
品出し、清掃、接客、レジ打ち、ときたま仕入れ。私の務め先は競合店と隣り合う複合施設だったため競争も激しく、アルバイトにしては色々な経験をさせてもらった。
最も学んだのは「お客様目線」の姿勢
同店のなかでも、紳士靴を最も出す売り場として知られていた。
そこには若い頃に「鬼軍曹」と呼ばれ、過去にマネージャーや副店長を務めた古株の社員「Uさん」が指揮を執っていた。
Uさんは180cmを超える長身に白髪交じりの丸刈り、鋭い目、胸ポケットにはたばこの箱が顔を覗かせている、怖いけど頼り甲斐のあるもう一人の父親のような存在だ(実際、年齢は私の父親より少し年上ぐらいだった)。
そこでUさんに叩き込まれたのは「お客様目線」の姿勢だった。
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Uさんは社員の勤務態度全般に厳しかったが、特に接客態度には目を一層光らせていた。
いいか。「商品を売る」だけじゃなく「お客様を満足させること」に気を遣うんだ。
そのための知識や知恵は自分を守ることに繋がるんだぞ。
このような趣旨のことを何度も言われた。
お店にはUさんに会うために顔を出すお客様が多かった。「今日はあの人いないの?」「ちょっと挨拶に来たんだけど」と度々言われたことがある。
そんなファンが多かった理由は、Uさんの「お客様目線」が徹底にあると思っている。
あるとき、Uさんとお客様の会話を盗み聞きしたことがあった。
Uさんはただの世間話をしていると思ったが、お客様の住んでいる地域の話をして、その人の家族の話をして、「だったら新しくできた行楽地に、●●を着ていくのは良いですね」などと会話を弾ませていた。
Uさんはお客様とお客様の生活を鑑みて、色々と提案して、あわよくば買ってもらうスタンスだった。
そのために彼は商品はもちろん、お客様、お客様の地域の情報を複合的に仕入れ、語れる状態にあった。
そうした彼の接客哲学を見て、店員は商品をただ提供するのではなく、店舗体験すべてを提供しているのだと私は学んだ。
「お客様に出す商品をお前が語れないでどうするんだ?」
そんなUさんに叱られたことがある。ひと通り商品知識を身に着け、お客様との会話も板について来たころだった。
私がお客様に接客を遠くから聞いていたUさんが、レジ終わりの私にこう言った。
もう普通の業務には心配してないけど、ひとつ聞きたいことがあるよ。
君はうちで売る商品を買って履いてみたことがあるのか。
……お客様に出す商品を君が語れないでどうするんだ?
私にとってこの指摘は電撃が走った感覚だった。私は何も言い返せなかった。
どちらかというと器用で淡々と真面目に熟すタイプと自負していた私は、他のアルバイトよりも仕事を覚えていたし日数時間ともによく稼働していた。十分だと思い込んでいた。
「よく売れている」とか「お似合いです」とか、そういう「浮いた」言葉じゃ人には響かないのか。もっと自分の実体験から触感まで伝わるような熱のこもった説明や受け答えができないと、ダメなのか。
真の「お客様目線」は、表面的な情報収集力だけではなく、突き詰めると自分が肌感覚を持って良し悪しを伝えられることなのかと痛感したのだった。
私は翌週、業務終わりにUさんに誘われ、セール札を貼りたての商品を社割で買わせていただいた。それが初めて自分の普段使い用に買った革靴で、六年間履き続けている、このリーガル812Rだ。
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今でも銀行に行くと、日本学生支援機構から借りたお金とアルバイト代を足して前後期の授業料を振り込みにいっていた学生時代をたまに思い出す。
せっかく貯めたお金が吸い取られる虚無感と少しばかりの達成感。ただしアルバイト代全額を好き勝手使える周りの友人が羨ましくなかった、言えば嘘になる。
いつかお金の心配をしないような生活はきてくれないかな、当分無さそうだなと思う。けれども、そんな雑草根性も自分らしさなんだな。リーガルは今日も輝く。
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