「そんなに革靴好きなら、個人輸入とかするの?」 たまーに聞かれる質問ですが、実は全然未経験です。
そもそも筆者はかなり慎重な性格で、フィッティングも確かめられない状態で革靴買えないんですね。
ただ実はこの「革靴を輸入する」という行為。今後EPAによる関税撤廃によって加速して、業界に大きなインパクトを与える可能性があります。
今回は外務省や商工会議所、その他経済新聞などでベタに調べてみました。
EPA(経済連携協定)とは何か
EPAの概要
EPAは「Economic Partnership Agreement」の略で締約国間の関税や非関税障壁の除去に加え、取引の円滑化、経済制度の調和といった連携強化・協力の促進を目的とした条約です。
本来、日本と外国の貿易には関税がかかります。外国の製品に関税がかかることで国内の生産者は競争から守られるわけですが、日本の生活者にとっては安く買えるチャンスが減ってしまいます。
そこで自由貿易化の施策としてEPAは日本と欧州連合(EU)間でも2017年に締結されました。革製品に関しては2019年3月から発効されています。
EPAの仕組み
ここで革靴にフォーカスしながら、EPAの仕組みを紐解きます。日本が欧州諸国と革靴を貿易する場合、日本が輸入する立場にある場合が主です。
喩えるならリーガルが欧州で売れる量よりも、パラブーツが国内で売れる量の方が多いといった感じです(ごめんなさい、便宜的に引き合いに出しただけで特に深い意味はないです)。
2019年3月からEPAは発効されていると先述しましたが、製品を日本へ輸出する国々は関税割当制(TQ制)というルールを用いて輸出量と関税額を決定しています。
この関税割当制によって課税されていた額が、EPAにより2029年までに徐々に減らされ、最終的には無税になるわけです。
補足:FTAについて
EPAと似た制度に、FTA(=経済自由貿易協定)というものがあります。
EPAにはビジネス環境の整備や知的財産の保護なども含めた包括的な協定であるものの、FTAにはそれらは含まれていません。
参考:日本商工会議所
https://www.jcci.or.jp/gensanchi/epazenpan.html
補足:EPA、FTAの締結国
本記事では日本とEU加盟国の貿易にフォーカスしますが、前提として他の加盟国も紹介します。
シンガポール,メキシコ,マレーシア,チリ,タイ,インドネシア,ブルネイ,ASEAN全体,フィリピン,スイス,ベトナム,インド,ペルー,オーストラリア,モンゴル,TPP12(署名済),TPP11,日EU・EPA
外務省「経済上の国益の確保・増進:経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/
EPAによる生活者メリット:関税率減少について
http://www.f-works.com/fwp/fwpbn/17-08/pick2.html
これまで革靴にも原皮にも、上記の税率で関税が課かっていました。
https://www.wwdjapan.com/449340
この右側のパイグラフは国内の紳士婦人両方のレザー用品の輸入額を示しています。約600億円(およそ30%)が欧州からの輸入品なので、撤廃後のインパクトは決して小さくありません。
・・・
我々生活者にはどれくらいメリットがあるのでしょうか。今後具体的にどれくらいペースで関税が緩和されていくのかご紹介します。
発効前 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | 2027 | 2028 | 2029 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
21.6% | 19.6% | 17.7% | 15.7% | 13.7% | 11.8% | 9.8% | 7.9% | 5.9% | 3.9% | 2.0% | 0% |
これから一年に2%程度関税の割合が低くなります。フランスから【50,000円】のパラブーツを買おうとした場合でシミュレーションしてみましょう。
2019年2月以前は【60,800円】だったものが、2024年時点には【54,900円】になり、2029年時点で【50,000円】(変わらない)になるわけです。
EPAによって起こり得る革靴業界への影響
では、革靴業界全体に視野を広げるとどうでしょうか。私の仮説を二点紹介します。
国内の販売店でインポート製品が大量流出する説
小売店にとってはこれまで以上に安く、低価格な欧州ブランドの革靴を生活者に販売できるようになります。そのため、インポート製品の棚が拡充される可能性があります。
一方、国内メーカーはその棚の奪い合いが始まりピンチになりそうです。企業努力により価格をより下げるのか(あまり現実的ではなさそう)、あるいは価格競争に飲み込まれない差別化を模索しなくてはいけません(逆にEUに販路を見い出すメーカーも)。
国内メーカーのなかには、スペインやポルトガル含めて欧州の生産コストが低い国々へと生産拠点を移すところが出て来るかも。
個人や小規模ビジネスが活発になり欧州ブランドを販売し始める説
今でさえ町の古着屋さんやインポート品を扱うショップが、力のあるバイヤーが欧米で仕入れた革靴を比較的安価で販売していたりしますよね。
そこの障壁がEPAによって取り払われたので、プロのバイヤーでなくても、リスクを背負って個人が仕入れることもできるようになります。
ネット通販が今以上に増えるかもしれません。そうなると町の靴屋さんはもちろん、デパートや百貨店も厳しくなりそうです。
まとめ
参考になりましたか? この記事をまとめると下記になります。
- 2019年から2029年にかけて、EU諸国から革靴を輸入する時の関税はどんどん低下し、最終的には無税になる
- 生活者視点では欧州ブランドの革靴がより買いやすくなるし、個人がネット通販などでビジネスを始めるケースも
- 国内の革靴メーカー視点では、革質に強みのある欧州ブランドが無税になりお手頃価格で入ってくると既存ブランドが淘汰される可能性がある
これからもアップデートしていこうと思います。