今日で8月が最終日。蝉が静かになり、だんだん鈴虫の鳴き声まで聞こえてきました。そうなると、まさに革靴の季節!!!
暑すぎて履く機会が減っていたパラブーツのシャンボードも、ドンドン登板回数が増えそうです。嬉しいですねぇ。
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私は「革靴伝道師」を謳っているのですが、今回は「靴磨き道具セット問題」について向き合う記事を書きました。
靴磨き道具セット問題とは、店頭では種類が多すぎて選びづらいし買った後にどうすれば良いか分からない課題のこと。
これを紐解くため、今回は靴磨きに慣れてない人と買い物に行き、実際に道具を選び、一緒に磨くことにしました。そこで得たノウハウをまとめたので、きっとこれから選ぶ人の参考になるはずです。ご覧ください。
市販の靴磨き道具セットは種類が多すぎ問題
出張靴磨きやTwitterで活動をしていると「靴磨きセットを買いたいけど、どうしたらよい?」という質問や相談がかなり来ます。店舗にリサーチしに来ると毎回思うのですが、
私自身、靴磨き道具(シューケア)セットを買ったことがなかったので、この機会に実体験してみることにしました。
8月某日にFacebook上で私に革靴を磨かれたい人を募ったところ、相談が殺到して1時間で被験者が決定。ありがとうございました。
この度はその靴磨き初心者の方「Nさん」と一緒に買い物に同行させてもらい、靴磨き道具セットを選ぶお手伝いをしました。
初心者が靴磨き道具セットを買うときに考えるべきこと
お店に行く前に、靴磨き初心者の人には何があれば良いか、何を揃えるべきか考えてみました。
- 品揃え:道具セットのなかに必要なものが揃っているか
- 色:自分の革靴の色や数に対応しているか
- 用途:自分が使うのか、友人や恋人にプレゼントするものか
この三つの目線で選ぶとまず間違いないと思います。これから順を追って説明していきます。
靴磨き道具セットの品揃え
まず品揃えです。「靴磨き」にはシューケアとシューシャインがありますが、初心者は最初からワックスを使ったシューシャインはあまり要らないし、基本的にやらない。
最低限の馬毛ブラシと豚毛ブラシ、布(クロス)、汚れ落とし、クリームがあれば十分だと思います。
靴磨き道具セット同梱のクリームの色
次に色です。その人の革靴のチョイスに左右されるので一概に言うのは難しいですが、基本原則は「ワンカラー、ワンブラシ(ひとつの色クリームに、ひとつのブラシ)」です。
ビジネスユースで革靴を履く人は黒靴が多いので、黒いクリームはマスト。
カジュアルユースの人で茶系の靴が多いなら、まずはブラウン。両方よく履く人は、両方の色を買うか無色(ニュートラル)を買うなど、工夫が必要です。
靴磨き道具セットの用途
最後に用途。自分で使う「自宅用」ならともかくプレゼント用だとセットの大きさや価格を気にする必要がありますよね。けっこうピンキリなので重点をどこに置くか、ですね。
参考までに、ブラシが二本あり汚れ落としとクリームが入ると大体2,000~3,000円が一般的な価格に思えます。
そこからブラシの質やグローブ、クロス、箱などがこだわっていくと、高いもので15,000~20,000円になったりします。
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革靴マニアが選ぶ市販の靴磨き道具セットのマストバイ
ではさっそく現地調査に入ります。品揃えがとにかく豊富で「革靴好き、靴磨き好きのメッカ」と私が勝手に呼んでいる東急ハンズ渋谷店に行きました。
Nさんが驚くのは無理もありません。売り場を見ると、靴磨きセットだけでも本当に多い!
今回同行した靴磨き初心者のNさんも「以前靴磨きセットを買ったものの足りているのか、正しい使い方なのか分からない」という相談でした。
そのため彼の既存セットに買い足すべき商品を選びつつ、万人向けな靴磨き道具セットを前述のポイントをもとに探してみました。
ブートブラック:基本四点+クリームは自分で買う方式
こちらは店頭限定のブートブラックの商品。2,000円前後で馬毛ブラシと豚毛ブラシ、塗布ブラシ、布、汚れ落としがセットになっています。
色選びは自分でするものの、全部買っても3000円程度なのでこれは良い。
ブートブラック:シルバーライン スターターセット
上記と似ているが少し違う。塗布ブラシが無いですが、仕上げ磨き用のグローブと黒もしくはニュートラルのどちらかのクリームが選べるパッケージ。
これがわずか2,000円(税抜)。箱は少しチープですが自宅用なら全然良いです。これもおすすめ。
サフィール:ミニJARセット ダブル 靴磨き シューケアキット ギフト
こちらはサフィールの缶に入った3,000円(税抜)のシューケアセット。高級感があるのでプレゼントにも良さそう。
注目すべきは黒とニュートラルのクリームとブラシが二本あり、主要な革靴の色は網羅できている点。布と汚れ落としに加えて竹ブラシまであるので、品ぞろえも申し分ないオールラウンダー。
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靴磨き道具セットの他に、買い足しが必要そうな道具
Nさんの買い足しは無事終了。
ここで今回のNさんの買い出しの場合と、よく起こりそうな買い出しの場合を、それぞれ順番に整理してみました。
この章を読むことで、他の人も「これは追加で買っておこう」というヒントになると思います。
靴磨き初心者Nさんがケア道具を買い足す場合
そもそもNさんの磨きたい革靴は、200年近い歴史がある英国の雄トリッカーズの赤茶色のブーツでした。かっこいい……!!
このトリッカーズをこれから磨くわけですが、Nさんがもともと持っていたM.モゥブレイ社のシューケアセットの中身は下記でした。
ひとつひとつ見ていくと、やや疑問の残るラインナップではあります。
- 豚毛ブラシ①
- 豚毛ブラシ② (なぜ二つ、馬毛ブラシは?!)
- 竹ブラシ×2 (なぜ二つ?)
- 仕上げ磨き用グローブ
- 汚れ落とし
- ニュートラルのクリーム
- ニュートラルのワックス (なんで、クロスがない?)
第一にこの赤茶色のブーツに合うクリームと布が必要。また、本人の興味もあり防水スプレーも追加で購入しました。
ちなみに二本あった豚毛ブラシですが「見た目が豚毛ブラシっぽいだけで、本当は片方が馬毛ブラシなのではないか?」という仮説も虚しく、触った限り本当に豚毛ブラシが二本でした……!
一般的に追加で必要になる靴磨き道具
ではNさん以外の方はどうでしょうか。
実は靴磨き道具セットだけを買っても、厳密には必要な道具が少し足りません。
市販のものはクリームの色の融通が利かなかったり、好みの工程までできなかったりするのでまとめてみます。
- 革靴に対応する色のクリーム(★これはマスト)
- シューツリー(★これもマスト)
- ボロボロになっているなら、替えの靴紐
- ワックスで仕上げたいなら、缶のワックス
これだけあればまず安心して良いです。買いすぎなこともありません。特に盲点は「シューツリー」でしょうか。
シューツリーは長期保管や靴内の湿気を吸い取るためだけでなく、シワを伸ばすために極めて重要なので買い足し対象です。
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実際に靴磨き道具セットを使ってみた
さて、もともと持っていた靴磨き道具セットに必要な道具も揃いました。
今回はせっかくなので私が片足を磨きながら、靴磨きのやり方を簡単にレクチャーし、Nさん自身にも真似して磨いてもらいました。
靴磨き道具セットを使った磨き様子
紐を取り、(緊急対応で)馬毛代わりの豚毛ブラシで払う
まずは靴紐を取り、付属のブラシ(馬毛ブラシがないので泣く泣く豚毛ブラシで代用)で磨きます。今回はブーツなのでシワの部分が多くてちょっと大変でしたね。
ブラッシングして埃を落とすことで後々クリームの塗布もやりやすくなります。羽根の部分も入念にやってもらいました。
できればNさんには馬毛ブラシ特有の毛足の柔らかさと弾力性でバネのように掻き出す感触を味わってもらいたかったですね。
豚毛ブラシだと力を入れ過ぎて革表面を傷める場合もありそうで怖かったです。
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布に水性クリーナー(汚れを落とし)を取って、表面の汚れを落とす
次に汚れ落としの工程です。指に布を垂らしてつまんで二周させ、余った部分をひっぱり掌で軽く握り込むように巻き、その上にクリーナーを垂らします。
そうしたら円を描くようにササっと拭いていきます。ブーツはアッパーの面が広いのでエリアを四等分するイメージで丁寧に拭いてもらいました。
ちなみにNさんの靴磨きセットには布が入ってなかったので私が布を貸し出しました。家にある布切れでも基本的に問題ないとのアドバイスもしました。
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布でクリームを取り点々と置く
ここからは少しスピーディにクリームを塗る工程です。布の綺麗な面を使って爪ひとつ~半分ほどのクリームを表面に取ります。
それを革に点々と置いていき、布を巻いた指の腹で円を描くように広げていきます。この際、シワの部分に浸透するように少しだけ力を入れます。
特に乾燥が進んでいるとその分だけクリームを置いてからグングン吸っていくため、少々急いで磨いていく必要があります。そこがNさんにとって少し難しそうでした。
ブラッシングしてクリームを浸透させる
靴磨きの醍醐味、ブラッシングの工程です。豚毛ブラシで力を入れてこすることで塗ったクリームを浸透させていきます。また余分なクリームを飛ばしていきます。
この靴磨きセットのブラシは小さく比較的握りづらいため、握力と言うか指力が鍛えられますね(笑)。
Nさんにも丁寧にやってもらい、この時点でだいぶ表面が潤って光るようになりました。
グローブで余分なクリームを拭き上げる
最後に仕上げの乾拭きです。だいぶ革靴が復活してきました。
盲点になりがちですが、ブラッシング後も表面にクリームが残ってベトっとしているので、拭き上げて一層綺麗にしてあげましょう。
Nさんのセットにはグローブがあったのでそれを使いました。もちろん布の綺麗な面で拭くだけでも大丈夫です。
補足:気になる人は防水スプレーでコーティングも
「ブーツはガシガシ履いていきたい」とのことで、最後に防水スプレーを振りかけました。
写真のように30㎝ほど離して掛けます。つま先を掴んでスプレーが当たる面を少しずつズラしていきました。ちなみに防汚防塵の効果もあるそうですよ。
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初心者がお手入れする際の注意点:色選び、コバのケア、塗りムラ
ここでは実際にお手入れする様子を見て感じた初心者の注意点を簡単に共有します。
最初に色選びが難しいと思いました。黒ならまだ間違いはないのですが。
今回はNさんのトリッカーズは赤茶でしたが、モゥブレイのかなり同じ色を店頭で見つけることができました。怪しいときは靴よりも少し明るめの色を選ぶと良いですよ。
次に革コバ(フチの部分のこと)のケア。
分かりづらいですが、コバも革なので乾燥しますし、現にけっこうボサボサになっていました!
ニュートラルのクリームが同梱されていたので、デリケートクリーム代わりに塗布して竹ブラシでブラッシングしました。油分をチャージして水の侵入を防ぐ効果があります。
最後にクリームの塗りムラです。
もうちょっとレクチャーしたときに強調すべきでしたが、布で点々と塗布する際はスピーディにやらないとその部分だけ濃く入ってしまいますね(汗)。
ペネトレイトブラシがあれば薄ーく伸ばしやすいので、その点リスクは減ります。ただ、着用とケアを繰り返せば自然に脱色と着色して均一になるので一時的な現象ともいえます。
靴磨き道具セット+αで磨いた、ビフォーアフター
ビフォー
アフター
全体的に艶が増して、トゥには色が入り、コバはしっとり保湿されたのが分かります。
まとめ:靴磨き道具セットと一工夫で十分ケアは可能
いかがでしたか?
Nさんのトリッカーズが磨かれる様子をお届けしましたが、皆さんにとっても、靴磨き道具セットと幾つかの道具でお手入れはできると分かってもらえれば幸いです。
以下はこの記事のまとめになります。
- 基本的には馬毛ブラシ、豚毛ブラシ、布(クロス)、靴と同色クリーム、汚れ落とし(クリーナー)が必要
- 価格はピンキリだが、上記を押さえつつ細かい条件を詰めていくと良い
- シューツリーや防水スプレー、靴紐など、必要に応じて道具の追加購入もすべき
お読みいただきありがとうございました!
・長谷川裕也『靴磨きの本』亜紀書房, 2016年, P20-41
・上田哲司『紳士靴完全バイブル』ナツメ社, 2019年, P233