革靴メーカーとユーザーが熱い議論! 「令和の靴族会議(かぞくかいぎ)」に参加して業界課題が見えてきた

革靴・靴磨き

こんにちは、革靴伝道師として活動しているこひ先生(k_leather_lover)です!

東京は30度を軒並み超え始め、春は本当に一瞬だったと痛感する毎日です。あぁ、桜が恋しい。

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古くから靴の町として愛される浅草。そこで5月中旬にとある会議が行われました。その名も「靴族会議(かぞくかいぎ)」。

革靴メーカーとユーザーが真剣に語り合う、革靴ファンにはたまらないイベントとなりました。

今回はそのイベントの様子を生活者代表として、まとめてみました。

 

イベント概要

まずこちらで、筆者がどんなイベントに参加してきたのかを具体的に説明します。

●平成から令和へ……時代のターニングポイント=靴産業(靴製作者) にとってはパラダイムシフト必至の今後、靴の世界に何が起こり、よりよく靴に生きるには何をどうするべきか?

●2020年は日本の靴産業150年(その前半75年=軍靴製造、軍需産業。太平洋戦争終結の後半75年=民需、平和、生活産業)の節目。 いやでも新しい波が押し寄せてくるはず。

●その新しい波を意識無意識的に引き起こしている(起こそうとしている) 人を囲みお話を聞き、相互に交流する会を開きます。ユニーク斬新、 面白奇人など多士済々が集まります。その両日のいずれかの時間帯に、 皆さんも多士済々の一人として会場にお出でください。

  • イベント名:令和の靴族会議
  • 開催日時:2019年5月18日、19日 13~17時
  • 場所:浅草文化観光センター

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このイベントの面白い点は大手革靴メーカーの方や個人事業で靴作りする職人の方、販売店の方、革靴が好きな生活者、皆が一同に会して話し合うというコンセプトです。

全二回開催され、私は19日(日)の回に参加させていただきました。全部で10名ほどいらっしゃいましたが、当日は予想以上に良い意味で、熱くぶつかり合いました。

 

注意点:読み進める前に

繰り返しになりますが、当日は大手、中小メーカーからユーザー(生活者)、多くの人が集まりました。

この文章は書き起こしをそのまま載せたのではなく、筆者の手書きのメモから切り出して整理した情報になります。

あくまで生活者の私がまとめたものであり、全ての意見を平等に反映できているわけではありませんのでご留意ください。

またメーカーとユーザー両者の言い分があり、お互いがまず課題を共有するのが開催趣旨に含まれていたと筆者は考えます。そのため、ここでは特定の組織、団体の考え方を糾弾するわけではございません。

それでは筆者が参加した19日回の議論のポイントをご覧ください(当日パネルディスカッションのようにお題が仕切られていたのではなく、自然発生的に生じたトピックをまとめただけです)。

 

主張①:革靴販売業は在庫ビジネスの典型である

こちらは大手革靴メーカーに勤める方のご意見。

食べ物でも衣服でも、基本的にどんな物販ビジネスでも需要予測を誤れば、在庫が残り廃棄となって、肝心な利益が出せません。

なかでも革靴は本格的なものになれば、たとえばヨーロッパの革を仕入れて、東南アジアで製造して、日本で仕上げる工程を辿ります(日本での販売価格を少しでも下げるため、労働力もグローバル)。

発注から納品までのリードタイムは、特に革の仕入れがボトルネックとなり4カ月にのぼるそうです。ただ参加者のなかの生活者からは「大変なのは分かるけど、厳しいのはファッション業界どこも一緒だろう。」との声も。

 

主張②:既成靴には大量生産とカスタマイズのバランスが重要

こちらは浅草の革靴産業を取りまとめる団体の会長の方のご意見。

既成靴は特定の木型をもとに大量生産できる反面、当たり前ですが、細かいオーダーには応えづらい。

そもそも足は足長、足囲、ボール(親指と小指のサイドを繋いだ線)、踵、土踏まずなどフィッティングに関わるポイントが多い。

また、人によって足の肉の柔らかさが異なるし、同じ人でも体調や生活習慣で形が変化します。なので合わせるのが非常に大変で、各社継続的な研究と開発が必要です(つまり、ずっと変わらない木型を採用するのは基本的に難しい)。

私も販売者経験があるのですが「日本人の足は甲高幅広」という説が流布しています。ただ、自分の足を計測したり木型に詳しいメーカーの担当者にヒアリングしたりすると、日本人の若年層を中心に、ライフスタイルの変化に応じて足の特徴が最近は変わりつつあると聞きます。

どこに「限界の射程(ex. 合う人合わない人の判断、何を追究し何を捨てて満足度を高めるかの判断)」を決めて開発するか、カスタマイズは各社の腕の見せ所ともいえます。

 

主張③:革靴の販売は売って終わらせず、調整込みで売るべき

こちらは浅草で紳士靴を販売する中小規模メーカーのオーナーさんのご意見。

「ここ3年で販売スタイルを変えた」という同氏は革靴を売りっぱなしではなく、後日、調整対応することでフィッティングを合わせに行くと言います。

「仮に販売時に70点だとしても、調整して80点にできる」とも話していました。これは中小規模の会社だからできる直球勝負の戦い方かもしれませんが、上記の「カスタマイズ」の好事例の一つではないでしょうか。

 

主張④:接客リソースと商品知識の不足が革靴利用者を敬遠させる

こちらは革靴が好きな一般生活者で、CtoCでしばしば中古の本格革靴を購入する方のご意見。恐らくメーカーが最も耳が痛かったパートかもしれません。

まず生活者が革靴を買いに行くとき、一番頼りになるはずの店員さんが時間を割いてくれない問題、あるいはフィッティングの仕方や、履いていくうちに起こり得るトラブルを共有してくれない問題

次に、革靴メーカーではなく百貨店など直接雇用関係がない販売者が、フィッティングの話を上手くできない・理解していない問題(社内外で教育を進める、とはいえ)。

これらは革靴メーカーにとってコントロールしづらい「手の届かない痒い部分」かもしれませんが、生活者にとっては店舗体験が極めて重要です。

「私はヤフオクで良い靴を買いました。でも、この靴を手放したオーナーは店舗でちゃんと説明してもらえなかったのではないか?」という言葉が印象的でした。

 

個人的な考察

私は「革靴人口を増やす」ために生活者と企業の意見を聞き、アクションしたいと思っているので、今回の議論はどれも参考になりました。

まず感じたことの総括。

  • 生活者へのヒアリング、製品へのフィードバック、販売チャネル(店舗やECなどあらゆる生活者接点)の改善など、全体をコーディネイトする思考が足りない
  • 故に、「良い革靴」を効率よく作ることに現場が目を向けがちで、生活者の認識とズレが生じてしまう

次にこれから情報収集したい、研究したいと思ったことです。

  • 国内類似産業のソリューションや海外の靴産業のソリューションのなかから、上記のフィッティングや販売チャネルの問題の改善策を調べてみる
  • 革靴メーカー、販売従事者に対して、生活者の現在の革靴の選び方、買い方について、経営レベルの課題と認識してもらえるレクチャーを行う

 

最後に

本業がITベンチャーで動きが比較的早く、意思決定もしやすい環境だったので、製造業者さんとここまで話ができたのは非常に有益でした。

シューフィルの城さんお誘いいただきありがとうございました!

参加後、中身をまとめたツイートをしたところ反響があまりに大きかったです。

これは、個人的には業界を変える一つの契機にしたいと意気込んでいます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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